海洋国家たれ!
平成20年9月20日(土)
改めて、我が国が「海洋国家」であることを自覚したい。
というのは、我が国の国政は未だに我が国が海洋国家であることを自覚していないからである。
もちろん、国政に携わる者は、我が国が島国であることは小学生の頃から知っているであろう。
しかし、単なる島国と海洋国家とは違うのである。
かつての人気マンガの「冒険だんきち」の住む島も島国だ。しかし、海洋国家とは言わない。そこは、自給自足の「原住民」が住んでいる島だけである。
海洋国家とは、シーレーンによる海上輸送によって国家経済が維持されている国家であり、外敵を海上において防衛する意思と軍事システムを保持する国家のことをいう。
従って、島国の目は常に内側であるが、海洋国家の目は常に海の彼方に向けられている。前者を島国根性という。
この秋の、民主党党首選びと自民党総裁選挙そして解散風を眺めていると、この島の永田町にいる「原住民」の目は内側に向けられたままである。
しかし、我が国のようにシーレーンによる海上輸送によって国民経済が成り立つ国家において、政治の目が内側だけを向いているならば、何れ近い将来、気がつけば、海上に国家崩壊の危機が迫っているということになりかねない。
この観点から気になることを指摘しておきたい。
まず第一に、九月十四日午前六時五十六分頃、足摺岬沖の領海内で視認された国籍不明の潜水艦については、既に忘れられたようだ。自民党の総裁選挙はおろか政界の話題にもならない。
この潜水艦を発見したのは、例のイージス艦「あたご」だ。従って、「あたご」は高度なイージスシステムによって潜水艦を発見したのだと思ったが、艦長ら二名が、約一キロ先の海上に潜水艦の潜望鏡を視認して、つまり、目で見て、ソナーなどで追尾を始めたが、同八時三十九分に見失った、という。
一キロ先の海上の潜望鏡を視認できるとは驚異的な視力だと思うが、何とも前近代的で原始的な「発見」の仕方である。これでは、すぐ見失うのは当然であろう。我が国のイージス艦とはこのような船なのであろうか。
さて、このような場合、どう対処するのが適切なのか。
我が国領海内を潜行して航行する潜水艦を無警告で攻撃し場合によっては撃沈する方策もある。
この方策に国防上の合理性があるのは、潜行中の潜水艦が核兵器を搭載している可能性を排除できないからである。
かつて、大韓航空機がソビエト軍によってシベリア上空で無警告撃墜された。また、ペルシャ湾においてアメリカ海軍の空母の上空を飛行しようとした民間機をアメリカ軍は撃墜した。
これらは、自国もしくは自軍に最悪の攻撃が為される可能性を排除できないからそういう措置が執られたのである。
しかし、この度、我が国の「海軍」は攻撃的姿勢を示すことなく潜水艦を見失っている。
仮に、某国が、我が国の潜水艦に対する対処の仕方を探りに来たのであれば(威力偵察)、これからは安心して横着極まりなく領海侵犯を仕掛けて来るであろう。
また、我が国では、イージス艦とは名ばかりで、レーダーの無い第二次世界大戦中の海軍のように、肉眼での視認によって潜水艦を見張っているのであれば、昼間の船の周囲一キロくらいしか見えないのであるから、我が国を取り巻く広大な海のどこからでも潜水艦がうじゃうじゃ領海に入っていることになる。
もっとも、今現在、我が国に総理大臣がいるのかいないのか分からない状態であるから、現場の艦長は、状況をすべて把握していたのであるが、その情報を上げると、首相官邸が「無政府状態」であるという我が国の「国家機密」が暴露されるので、敢えて報告せず、「見失った」で済ませてしまったのかも知れない。情けないことではあるが、今の永田町と総理大臣の顔(まだ福田さん)を思い浮かべると、この推測も成り立ってくるのである。
さらに、インド洋での我が国のプレゼンスを確保する為の新テロ対策特別措置法改正案についてである。
この問題は、単にインド洋において我が国が油を多国籍海軍艦艇に供給するのがいいのかわるいのか、憲法違反なのかどうなのか、という問題ではないのだ。我が国の国際社会におけるプレゼンスの問題なのだ。
また、他人事の問題ではなく「海洋国家」である我が国の存立基盤に関する問題なのだ。
この問題克服に使命を感じようとしない総裁候補、この問題より政局を優先する野党党首、これらはすべて海洋国家の政治家ではない。目が内側だけを向いている、単なる島の「原住民」にすぎない。
さて、九月十八日午前十時三十分、東京晴海埠頭で海上自衛隊練習艦隊の帰還式があり出席した。本年四月十五日に緊張して練習艦に乗り込んでいった百数十名の海軍士官の卵達が、五ヶ月間の航海を終えて逞しくなって帰ってきた。
式が終わり退席した後、久しぶりに築地の市場で昼食をとることにした。三人で食堂のカウンターに座って食べていると、四人の家族が入ってきて横に座った。
しばらくすると、隣のご婦人が「西村真悟先生でしょ」と言われる。驚いて「そうです」と応えると、
「先ほど息子が、練習航海から帰ってきたんです。先生は、出港式にも来て見送ってくださいましたね」と言われた。
見ると、一番向こうの父親の手前に、日に焼けた逞しい青年がいてほほえんでいる。笑顔の母親の横は青年の姉であるという。
遠洋航海を終えた息子と五ヶ月ぶりに食事をする家族の光景だった。
海洋国家である我が国の海軍士官は、着々と育っている。
私は、うれしくなって両親に挨拶し彼を激励して店を出た。
その前に、次のように言った。
「政治に重大な関心を持ってくださいよ。そうでなければ、君たちの国家のために遂行される任務を党利党略のために憲法違反にしてしまうのが今の政治だから」