台湾報告(一)
平成19年8月24日(金)
台湾の「空気」を肌で感じる為、二十日朝から二十三日夜まで台北と高尾を訪問してきた。
本年の秋深まる頃から、台湾は選挙の時期を迎える。先ず、立法員選挙、そして年を越して春の総統選挙である。それで、先ず、このくそ暑い夏に台湾を感じ、次に晩秋そして来春の訪問が必要と考えた。
何故なら、この台湾の行方が、我が国の将来に大きく影響するからである。
そして、この台湾の行方を決めるのは誰かということであるが、それは台湾に住む国民である。だから、台湾に行ったのである。もし、北京が決めるのなら北京に行く必要があるだろう。ワシントンならワシントンに行く。
ここがポイントだ。繰り返すが、台湾の行方を決めるのは台湾の国民(二千三百万人)で、中国でもアメリカでも日本でもない。何故か。台湾は既に「国家」だからである。逆に言えば、領土と国民が存在して、国民が自らの行方を自らが決めて他の何者にも決めさせない共同体を国家というのである。台湾は、既にその国家である。
しかるに、日本外務省スポークスマンは、去る七月二十四日、台湾に関して如何なることを言ったのか。
彼は、陳水扁総統が国連に台湾名義で参加申請をしたことに関して次のように言った。
「我が国の台湾に関する立場は日中共同声明にあるとおりで、台湾あるいは台湾当局を、国または政府として扱うことはありません・・・」
では、、この我が国外務省スポークスマンの発言は、正しいのかということになるが、これは正解である。正しい。
但し、このスポークスマン発言の中の「台湾」という箇所を「中華民国」と言い換えれば完璧な正解ということになる。
この完璧な正解を外務省が発表できなかった訳は、陳水扁総統が「台湾」名で国連参加を申請したからである。ここに工夫が見られるが、レッテルの張り替えだけでは実態を変えることはできない。そして、この実態を変えるか否か、これも台湾人が決めることなのである。
つまり、いささかややこしいのであるが、
「台湾は如何なる未来を目指すのか、また、日本外務省がああいう発言をせざるを得ない台湾の実態を変えるのか変えないのか、これら全ては台湾人が決める。
この意味で、台湾は既に立派な独立国家である。
しかし、この従来からの実態を前提にすれば、国際社会は日本を含めて台湾を国家として扱うことはできない。」
ということになる。
そして、これらを決める選挙が来年に迫っており、この結果は台湾二千三百万国民の将来とともに、我が国一億二千万国民の将来にも大きな影響を及ぼすのである。
従って、外務省は、国際法ゼミの「正解」を発表して済ましているだけではなく、我が国の国益の観点から台湾を「国または政府」として我が国と国際社会が扱えるように、大いに工作して台湾を友邦として励まさねばならないのである。外務省の「正解」にはこの観点が見えない。外務省は学術機関ではなく外交という国策を遂行する機関だとするならば、ゼミの秀才の記者会見はいらないと言っておきたい。
さて、台湾は既に独立国家であるのに、国際社会が台湾を国家として扱えない実態とは何か。
それは、台湾が未だ自らを「中華民国」であるとしている一点である。
そこで、この「中華民国」とは何かと再度点検すると、その実態にアッと驚く。
「中華民国」の首都は南京である。そして、この中華民国とは、現在の中華人民共和国の版図にさらに「モンゴル」を加えた広大な「版図」をもつ国家なのだ。
一体、このような国家が現在の地球上の何処に存在するというのか。これは、中国共産党との「内戦」に敗れた後に、中国国民党を率いて台湾に逃げ込んだ蒋介石と仲間の頭から終生消えなかった幻想に過ぎないのではないか。
李登輝前総統は、二〇〇三年八月次のように演説した。
「私は、十二年間確かに中華民国総統であった。しかし、中華民国は何処にあるかと探したが、何処にも見あたらなかった」
現実に中華民国総統であった人物が、中華民国など何処にも存在しなかったと言っている。つまり、中華民国は幻想の中にしかないのである。
しかし、台湾には未だこの幻想は存在する。事実、私の旅券は公用旅券なので、台湾入国にビザが必要となる。私はこの度も「中華民国」発行のビザで台湾に入国した。
そして、この幻想の恐ろしさは、これによって台湾人二千三百万人が中国に脅迫されているということである。
この中華民国の幻想があるから中国は、国際法を蹂躙する台湾武力併合を高々と掲げても、これを「内政問題」と言ってのけることができる。つまり、二十世紀前半から続いている中国国民党と中国共産党の「内戦」が百年になんなんとして今も続いている、だから台湾を攻めても内戦であり内政問題だという前提で中国は行動できる。
これが、「内戦」ではなく、他国を武力併合するとなると、明らかに国際法違反であり中国は帝国主義的侵略国家と規定される。しかし、台湾が中華民国の幻想を捨てないものだから、中国は「内戦」として堂々と武力を行使できることになる。しかもこの武力行使は、東アジアのみならず世界の平和を吹き飛ばす。我が国の将来を暗雲で覆う。
従って、「中華民国の幻想」が台湾のみならず一番近い日本を破滅に導きかねないのだ。
そしてまさに、台湾人がこの幻想から脱却して、自らのアイデンティティーを確立するのか否か。これを決める選挙が来年春の総統選挙になる。つまり、台湾は台湾であり、ここに中華民国は存在しない。 従って、中華民国憲法も既に存在せず、台湾の首都は台北であり、領土はこの島々であり、台湾は国民主権によって統治される。これが、台湾の現状を素直に自然に追認することであり、台湾人の国家としてのアイデンティティーの表明である。
そして、この表明によって台湾の国家としての国際社会への参加の大道が拓かれれば、台湾自身と日本及びアジアの平和要因が強化される。中国と台湾を取り巻く関係において、国際法つまり国と国の関係を律する仕組・システムが機能するからである。反対に従来の中華民国の惰性から脱却できなければ、戦禍の危険が増大する。
この意味で、今まで日米両政府が、台湾と大陸の戦禍を避けるために現状維持を望み、台湾側のアイデンティティー確立への歩みを抑制しようとしたのは間違いであった。中国の恫喝に惑わされたのである。中華民国体制(幻想)の現状維持こそ、中国が一番武力行使がしやすい状況なのだ。つまり、現状維持こそ、我が国を巻き込んだ東アジアの動乱につながるのである。
もちろん、中国は中華民国の惰性を強力に保とうとする。台湾併合を「内政問題」つまり国際法を考慮しない中国得意の「無法の領域」で処理できるからである。
従って、我が国こそ、自らの平和の為にも、自由と民主主義を国是とする友邦を守るという国家の大義と信義の為にも、中華民国体制から脱却しようとする台湾を励まし、台湾国としての国連加盟を実現すべく努力しなければならないのだ。
来春の総統選挙は、中国国民党の候補者と民進党の候補者との争いになるが、中国国民党の候補者は「中華民国」の候補者である。
従って、中国は、強力な「内政干渉」を繰り返して、国民党候補者が当選するように仕向けるであろう。
この意味で、第三次国共合作は既に始まっている。
国共合作つまり中国国民党と中国共産党との共同は、過去二回為されたが、それはことごとく我が国に不幸をもたらした。
我が国は、国益上、第三次国共合作を成功させてはならない。
以上、本日はこの総論でとどめ、日を改めて、友邦台湾についてこれから報告を続けたい。